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2017年08月10日

しも望まない核

「ごめんね。どうしても顔を見て居たい。」
「僕も……旭日さんが見えた方が良い……です。」
「ああ、幸せすぎて、意識がぶっ飛びそうだ。」

朔良は侵入してきた小橋の持ち物が、くんと質量を増したのを感じた。
ゆっくりとグラインドする小橋の動きに、思わず身体を捩り、身構えてしま柏傲灣うがそれは恐怖からではなかった。むしろ甘い期待が朔良を包んでいた。
朔良を抱きしめた小橋の身体が、一瞬緊張し弛緩した。

「くっ……。」
「朔良をよろしく頼みます。朔良が誰かを紹介したいなんて言って来たのは初めてなんです。本当の朔良は、ご存知ですか?いつも朔良は、仏頂面で機嫌が悪そうにしているでしょう?最初は、小橋さんも戸惑ったんじゃありませんか?」
「そうですね。でもすぐに分かりました。朔良君は、とても素直な患者でしたし、人嫌いに見えるけど、それは相手が良く分からないから、不安で踏み込めないだけではないかと……と思っています。」
「そう!そうなんです。」

彩は人好きのする満面の笑みを、朔良に向けた。

「……良かったなあ、朔良。この人は朔良の事をとてもよくわかってくれているじゃないか。大抵の人は、朔良の上っ面だけを見て、とっつきにくいって言うのにな。ちゃんと、朔良の内側を見てくれているんだな。」
睫毛が濡れて、涙が零れ落ちるのではないかと焦った。

「あ~!……そうだ、思いだした!僕も食べたかったんだ。だから朔良君が悪いんじゃない。僕が食べたかったから、買って来たんだよ。」
「……すん……」

朔良は黙って小橋のシャツにしがみついた。
甘やかしてくれる小橋が、宥めるように抱いた朔良の頭を撫でてくれる。
抱きあう二人を見た彩は、ついため息交じりに口にした。いっそ柏傲灣付き合っているのは内緒にしてしまおうかと、マイナスな方向に話がまとまりかかった時、ドアホンが鳴った。
話題の中心の帰宅だった。

「あ、ママ。お帰りなさい。」
「なあに、お客さまなの?」
「初めまして。理学療法士の小橋旭日と言います。朔良君のリハビリを担当させていただきました。」
「ああ、プールのリハビリの先生なのね。朔良がお世話になっております。この度は、進路についても色々相談しているみたいで、ご迷惑でしょうけどよろしくお願いします。」
「いえ。迷惑なんてとんでもないです。」
「ゆっくりしてらしてね。今日は、お泊りして行かれるのかしら。」
「やめてよ、いきなり。迷惑だよ」。

慌てる朔良を尻目に、薄いコートを脱ぐと、母は彩が淹れて来た薫り高いコーヒーをこくりと呑んだ。

「あら、違うの?お付き合いしているんでしょう?」

その場に直立した小橋は、言葉を失って困ったように朔良を見つめた。

「僕、まだ何も言ってないけど?」
「そう?彩君からやっと離れられたみたいだったから、てっきり新しい人を見つけたと思ったのだけど。じゃ、この方は、朔良の良い人ではないのね?」
「……僕の好きな人です。」
「だったら、早くそうおっしゃい。面倒くさい子ね。夕飯は出前の御寿司で良いかしら?」
「あの、ママ。小橋旭日さんは男で……僕も男だから……そういうことになるけど、いいの?」
「そう言う事って?ああ、世間一般に祝福されない関係ってこと?そうね。あなたは一人息子だし、親としては、家が絶えるって反対するのもありかもしれないわね。」
「覚悟してます。ごめんなさい。」

朔良の母は、息子を傍に呼んだ。

「この人といると幸せ?朔良。」
「……うん。」
「そう。ママはいつだって、朔良が幸せなら幸せ。いつもそう言っているでしょう?」
「そうだね。」

朔良の母は、側で驚く小橋を不躾に眺めた。上から下へと視線が降りる。

「ママが恋人の条件を出したでしょう?腕っぷしはありそうね。小橋さんは何か武道でも?」
「柔道をやってます。今は現役ではありませんが、練習はしてます。一応、黒帯です。」
「じゃあ、朔良を守れるわね。職業も持っているし、反対する理由は無いわ。」
「でも、おばさん。どうして……?」
「あら。彩君は反対した方が良かったのかしら?」
「そういうわけではないですけど……」
「小橋さんは御存じかしら。朔良は、小さなころから彩君だけを追って来たの。それは彩君も知っていたでしょう?」
「ええ。」
「でも、朔良は彩君の恋人にはなれないと、私は思っていたの。だって朔良は、どこまでも追い過ぎるんだもの。朔良の愛情は執着心と独占欲が強くて深い……たぶんママでも、自分に向柏傲灣けられたら重いと思ったわよ。年上だから我慢できるのかしら。」
「ひどい……。」

あっけらかんと言い放つ母親に、朔良も呆然としている。

「なあに?鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。あら、おいしいわ。このシュークリーム。あなたが買って来て下さったの?」
「はい。朔良君が好きだと聞いたので。」
「朔良の好きなものは、私も好きよ。覚えておいてね。」
「次から忘れずに二人分、買ってきます。」
「ありがとう。うふふっ……」

小橋は理解した。
きっと朔良は、心根もこの美しい母親に似たのだろう。
心に忠実で、面倒な美辞麗句を排除心から話す。とても、好ましいと感じていた。

彩も思っていた。
過去に悲惨な目に遭って来た朔良を、必死に守ってきた母親。
きっと彼女には彩が傷ついた朔良を見つけた日から、朔良が無事なら他には何と言う、祈りにも似た想いがずっとあるのだろう。


Posted by sowelly21@gmail.com at 13:19│Comments(0)
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